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岡山地方裁判所 昭和60年(ワ)427号 判決

原告

野口好子

ほか二名

被告

宮崎稔彦

ほか三名

主文

一  被告宮崎稔彦は、原告野口和広に対し、金六九七万二九六一円、原告横田悦子に対し金七〇〇万円及びこれらに対する昭和五九年七月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告藤本英二は、原告野口和広に対し金一五万四七六〇円、原告横田悦子に対し金一五万四七六〇円及びこれらに対する昭和五九年七月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告野口好子の被告らに対する請求を棄却する。

四  原告野口和広の被告宮崎稔彦、同藤本英二に対するその余の請求及び被告藤本信子、同藤本靖則に対する請求を棄却する。

五  原告横田悦子の被告藤本英二に対するその余の請求及び被告藤本信子、同藤本靖則に対する請求を棄却する。

六  訴訟費用は、原告野口好子に生じた費用は同原告の負担とし、原告野口和広に生じた費用の四分の三を被告宮崎稔彦の、その余は被告藤本英二の負担とし、原告野口悦子に生じた費用の一〇分の九を被告宮崎稔彦の、その余は被告藤本英二の負担とし、被告ら各自に生じた費用は被告ら各自の負担とする。

七  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告野口好子に対し金五八〇万円、原告野口和広に対し金七〇〇万円、原告横田悦子に対し金七〇〇万円及びこれらに対する昭和五九年七月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 昭和五七年七月一五日午前〇時五〇分頃

(二) 場所 岡山市野田屋町二丁目七番二号先路上

(三) 加害車 普通乗用車(岡五六は六九二四号)

(四) 右運転者 被告 宮崎稔彦(当時二一歳以下「被告宮崎」という。)

(五) 右所有者 被告 藤本靖則(当時一八歳以下「被告靖則」という。)

(六) 被害者 横田實(当時四八歳以下「亡實」という。)

(七) 事故の態様 被告宮崎が被告靖則を助手席に乗せ、加害車を運転し、歩行中の亡實に衝突転倒させたもの

2  責任原因

(一)(1) 被告宮崎は右日時場所において加害車を無免許でしかも飲酒を帯びて運転したものであるが、走行中に歩行者の亡實を認めたのであるから、これと衝突しないよう前方を注視して運転すべき注意義務があるにも拘らず、漫然交差点を右折したため、自車右前部を同人に衝突させて、ボンネット上にはね上げ、その後路上に転倒させ同人に傷害を負わせた。

(2) そのうえ、路上に転倒した亡實を病院に運んで救護するどころか同所から倉敷市児島宇野津地内鷲羽山スカイラインまで運搬して放置し、その頃同人をして、硬膜下及びくも膜下出血等の原因により昭和五九年七月一五日午前四時三〇分頃死亡させた。

よつて被告宮崎には生命侵害という民法七〇九条の不法行為責任がある。

(二) 被告靖則は、加害車を所有していたから自賠法三条の自己のため運行の用に供していた責任があるとともに、被告宮崎が飲酒のうえ、無免許で加害車を運転するのを承知していたのであるから、人身事故を起こすことを当然に予見できたはずであるし、本件事故後直ちに亡實の瀕死の状態を救護すべきであるのにこれを怠り、途中で下車してこれを放置したものであるから、亡實に対する生命侵害への民法七〇九条の不法行為責任がある。

(三) 被告靖則は、本件事故当時一八歳であり、被告藤本英二、同藤本信子はその親権者であるところ、被告靖則が本件事故まで二年の間に六回の道路交通法違反を起こしているのに、自動車教習所に通わせ車まで買い与え、深夜我が子が本件事故のような重大な犯罪をひき起こすかも知れない状況を認識していたのに、深夜悪友と加害車を乗り回すなどの危険な行動に及ぶのを叱責もせず、漫然と放置していたから本件事故を誘発させたもので、親権者としての重大な監督義務違反があり、この重大な義務違反が直接の原因力になつて事故を起したものであるから両親として民法七〇九条の不法行為責任があるとともに、被告靖則に車を買い与えたことによる自賠法三条の運行供用者責任がある。

3  損害

(一) 逸失利益 四四九五万一一五五円

亡實は、本件事故当時四八歳の健康な男子で、内山工業株式会社に勤務し、平均月額四〇万八〇〇〇円を下らない収入を得ており、本件事故にともなう死亡により六七歳までの収入を得ることができなくなつた。生活費三〇パーセントを控除し就職可能年数一九年とし、これに対応するホフマン係数一三・一一六を乗じて現価を算出すると四四九五万一一五五円となる。

408,000(円)×12×0.7×13,116=44,951,155(円)

(二) 葬儀費用 八〇万円

八〇万円を下らない費用を原告野口好子が支払つた。

(三) 原告ら固有の慰藉料

亡實と原告野口好子は、昭和五五年に離婚したものであるが、昭和五六年によりを戻し、原告野口和広が高校卒業後は復縁して一緒に生活することとなつていたものであり、子を残して他界せざるを得なかつた父親の心情、本件事故発生後のいきさつ、夫や父を無残に奪われた遺族らの気持等の諸事情を考慮すれば、慰藉料額は原告野口好子につき五〇〇万円、原告野口和広につき一〇〇〇万円、原告横田悦子につき一〇〇〇万円が相当である。

(四) 相続

原告野口和広、同横田悦子は、亡實の子として右逸失利益の損害賠償債権を各二分の一あて相続した。

よつて、被告ら各自に対し、原告野口好子は損害賠償金五八〇万円の、原告野口和広は同三二四七万五五七七円の内金七〇〇万円の、原告横田悦子は同三二四七万五五七七円の内金七〇〇万円の各金員とこれらに対する本件事故日である昭和五九年七月一五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否(被告藤本英二、同藤本信子、同靖則)

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(二)のうち、被告靖則が加害車を所有していたこと、自賠法三条の運行供用者の責任があることは認めるが、その余の主張は争う。本件事故は被告宮崎の惹起した事故であつて、被告靖則は単なる同乗者にすぎず、本件事故後も被告宮崎が亡實を病院に連れて行くと云うのを信じて被告宮崎に亡實の救護を任したにすぎず、被告宮崎が被害者を放置し死亡させるとは予見し得なかつた。

3  同2(三)の事実のうち、被告靖則が本件事故当日一八歳であり、被告藤本英二、同藤本信子が親権者であつたことは認めるが、監督義務を怠つたとの点は否認する。かえつて両親の監督が厳しすぎたため、被告靖則は本件事故発生の一か月前位から家出して両親と別居しており、別居中も常に悪友との交際をするのを禁止し、自動車の運転には特に気をつけるように注意していた。従つて民法七〇九条の不法行為責任があるような著しい監督義務懈怠はない。

そもそも本件事故は、被告靖則の友人である被告宮崎の惹起した事故であつて、被告藤本英二、被告藤本信子には事故発生の危険の予知など全くできなかつた。又自賠法三条の運行供用者の責任は被告靖則にあるものの加害車の鍵を被告靖則から取り上げていたから被告藤本英二、同藤本信子にはない。

4  同3(一)のうち、亡實が本件事故当時四八歳であつたこと、内山工業株式会社に勤務していたことは認めるが、その余は否認する。亡實の月額平均収入は三三万九三九七円であつた。同(二)、(四)は不知、同(三)は争う。

三  請求原因に対する認否(被告宮崎)

1  請求原因1の事実及び同2(一)の事実を認める。

2  同3(一)の事実のうち、亡實が四八歳であつたこと、就労可能年数が一九年であることは認めるが、その余は否認する。同(二)は不知。同(三)は争う。同(四)の事実は認める。

四  抗弁(被告ら)

原告野口和広と横田悦子は、本件事故に関し自動車損害賠償責任共済(加入者被告靖則)により美甘村農業協同組合から合計一九一〇万五一〇〇円の支払を受けた。

五  抗弁に対する認否(原告ら)

認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  同2の責任原因につき、被告宮崎は同(一)においてこれを認め、被告靖則は同(二)(1)においてこれを自白し、原告と同被告ら間に争いがない。

三  しかしながら、被告靖則は、同(2)において不法行為責任を争うので検討するに、成立に争いのない甲第一、二号証、第四ないし第六号証並びに被告藤本靖則及び同宮崎稔彦の各本人尋問の結果によれば、

1  被告靖則は、本件事故の前日である昭和五九年七月一四日午前一〇時三〇分頃岡山市青江六〇〇番四にある住宅から加害車に乗つて玉野市に向い、同市に住居していた被告宮崎とおちあつたこと

2  その後、被告靖則と同宮崎はドライブすることとなり、被告靖則が加害車を運転して渋川海水浴場や倉敷市内を走行し、午後五時半頃から岡山市駅元町にある駐車場に加害車を止めて二人でキヤバレー風林火山などでビールを飲酒したこと

3  被告靖則は、本件事故の前日は岡山市野田屋町にある喫茶店チエリーにウエイターとして夜勤し、勤務明けの朝帰りであつたが、右のとおりキヤバレーでビールを飲酒したことから、酔が急にまわり午後一〇時頃には自動車を運転できる状況ではなくなつたこと、そこで同被告は、被告宮崎に同人が無免許であることを承知で運転させることになつたこと

4  被告宮崎は、同靖則が酒にかなり酔つていたため、加害車を運転することを買つてでて、岡山市内をドライブしたこと、そのうち請求原因(一)(1)主張の事故をひきおこしたこと(右事故をおこしたことは原告と被告宮崎との間において争いはない。)

5  この間被告靖則は、助手席に同乗しているうちに眠つてしまい、本件事故直前に覚醒したものの、いわば寝ぼけ状態で事故の原因について知る状況にはなかつたこと

以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

以上によれば、被告靖則は被告宮崎に対する無免許運転等の幇助である道路交通法上の違反の事実は認められるものの、被害者亡實に対する人的損害の不法行為責任はその予見可能性からいつて成立しないというべきである。従つて亡實への人的損害に対する不法行為責任は被告宮崎のみが負うというべきである。

四  次に同(一)(2)の事故後の不法行為責任の有無について検討するに、右各証拠によれば、

1  被告宮崎は、同靖則とともに、本件事故直後亡實の負傷した生体を加害車の後部席に乗せて救急病院を探すべく七〇〇メートル程走行したこと

2  そこで、被告靖則は、被告宮崎から「わしがどねんするから降りろ」といわれ、被告靖則も喫茶店の勤務時間が始まつていたこともあつてこれに応じて降り、喫茶店チエリーに向かつたこと

3  ところが、被告宮崎は、病院に向わず請求原因2(一)(2)の主張のとおり、亡實を鷲羽山スカイラインまで運搬して放置し、同人を硬膜下及びくも膜下出血により死亡させたこと(このことは、原告と被告宮崎との間においては争いはない。)

以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。右の認定した事実によれば、被告靖則は加害車から途中下車するなど要領のいい点はあるものの、被告宮崎の単独事故であつて法上の救護義務者たり得ないというべきである。そうすると被告靖則に対しては道交法上の違反はともかく、事故後の身体侵害に対する不法行為責任も問いえないというべきである。

五  次に、同(三)における被告藤本英二、同藤本信子に対する責任について検討するに、自賠責の運行供用者責任については前判示のとおり被告靖則はこれを認め、被告藤本英二はこれを争うものであるが、被告靖則の自白は権利自白にすぎないから裁判所はこれに拘束されるいわれはない。そこでその責任の有無について検討するに、右認定事実に加え前記各証拠及び被告藤本英二本人尋問の結果によれば、

1  被告靖則は、昭和五八年三月に高校を中退したが、その理由は校則に反して原動機付自転車の免許を取得したことが主であつたこと、被告藤本英二は右の校則に反し被告靖則に原動機付自転車を買い与えていたこと

2  被告靖則は、高校中退後家業の有限会社藤本設備工務店の配管工の手伝をし、父被告藤本英二ら父母と同居するとともに日給五〇〇〇円を父から受け取つていたが、家業の仕事に便利であることから父母の賛成を得て普通乗用車の免許を取得するとともに、昭和五九年三月には普通乗用車を購入したこと

3  右購入乗用車である日産ブルーバードの購入代金は一一五万円であつたが、頭金は被告靖則の貯金の中から出し同被告の登録名義としたものの、不足分八〇万円は被告藤本英二が銀行から借り入れて購入したこと、以後被告靖則は給料の中から月額三万円を返済してきていたこと

4  右日産ブルーバード購入後、三か月程を経て、被告靖則は、右自動車を運転中接触事故を起し擦過痕を残したため同車の運転がいやになり、被告藤本英二に無断でこれを処分し、中古車の日産セドリツク(加害車)を購入したこと、そのため被告藤本英二の立腹するところとなり、親子喧嘩したため、被告靖則は家を飛び出し、昭和五九年六月中旬からは岡山市野田屋町にある前示喫茶店チエリーにウエイターとして勤務することとなつたことしかし宿泊は友人宅や日産セドリックの自動車の中で寝泊りするようになつたものの、入浴や洗濯物の着替のためには加害車に乗つて自宅に帰つたりしていたこと

5  先の物損事故は、被告藤本英二においてその費用で始末したこと

6  被告靖則は、本件事故の前日である昭和五九年七月一四日にも午前中加害車に乗車して自宅によつて一、二時間を過したこと

以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

以上によれば、加害車の所有は被告靖則にあるものの、親である被告藤本英二が加害車の購入代金の大半を捻出しているといえる。すなわち、加害車の取得前の日産ブルーバードの購入について、被告藤本英二は自ら銀行借入をなして協力し、又被告靖則の右物損事故の処理につき被告藤本英二が処理費用を負担して管理してきていることが認められる。これに加えて日産ブルーバードの購入時には親子同居し、且つ被告靖則は家業の配管工の手伝もしていたのであるから、右ブルーバードは家族や家業に依存して得られたものであつたというべきである。

そうとすれば、加害車が本件事故当時未成年者であつた被告靖則の所有であつたとしても、なお右の加害車を購入するに至る経緯や被告靖則の両父母への生活の依存状況からすれば息子の所有車両につき被告藤本英二が運行供用者であると解するのが相当である。

もつとも本件事故は、被告靖則が被告藤本英二らと同居中のことではなく靖則の家出中のことであり、且つ加害車は、右ブルーバードではなく、被告靖則が無断で買い換えた後のニツサンセドリツクによることであるから、このことが運行供用者を認めるに障害となるかを検討する必要がある。しかしながら、本件事故までの家出期間中の期間はわずか一か月弱で短期であるうえ、被告靖則は時折帰宅し、父親もこれを諒承していたものであり、そうとすれば、社会通念上未だ父親の加害車への運行支配は、離れているとはいいえないというべきである。

被告藤本英二は、被告靖則の加害車の運転につき家出前に運転鍵をとりあげたからその運行支配を離れたと主張し、その旨の供述をするが、被告藤本英二が鍵を被告靖則からとりあげたかどうかは被告藤本英二の内部事情であり、確たる判断はできないし、且つとりあげた動機も前認定のとおり中古自動車の被告靖則の勝手な買換への非難に主眼があつたのであるから、これだけでは直ちに親からの運行支配を離れたといえるか疑問であるばかりでなく、被告靖則は、前判示のとおり本件事故直前日に自宅で一、二時間を過すべく加害車を乗りつけているのであるから、被告藤本英二の運行支配を離れたとはいいえない。

その他全証拠によるも、加害車が被告藤本英二の運行支配を完全に離れたと認定するに足りる証拠はない。そうすると、被告藤本英二は自賠法三条の運行供用者というべきである。

又前判示のとおり、被告靖則には不法行為責任は問い得ないから、それを前提とする親権者の監督義務違反による不法行為は問いえないというべきである(最裁判昭和四九年三月二二日民集二八巻二号三四七頁参照)。

従つて被告藤本英二についてのみ運行供用者の責任が問い得るというべきであり、被告藤本信子、同靖則には損害賠償責任を問い得ない。

六  しかして、前記認定のとおり、被告宮崎は、本件事故後事件の発覚を恐れて単独で負傷を負つている亡實を倉敷市児島宇野津の鷲羽山スカイラインの崖下に突き落し、頭骨骨折に伴う硬膜下出血等で死亡させたものであるから、被告藤本英二の自賠法三条の責任の及ぶ相当因果関係の範囲は被告宮崎の故意行為によつて中断されたというべきである。

七  そこで請求原因3の損害の点について検討する。

1  まず同(一)の逸失利益の点について検討するに、成立に争いのない甲第三号証、乙第二号証によれば、亡實は本件事故当時四八歳(このことは当事者間に争いがない。)の健康な男子で内山工業株式会社に勤務し(このことも当事者間に争いがない)、本件事故直前の月額平均三三万九三九七円の給与を得ていたことが認められる。

ところで、前判示のとおり逸失利益の算定にあたつては、本件事故と亡實の死亡との間に被告宮崎の故意行為が介入しているから、相当因果関係を判断するにあたつてはこの点が考慮されねばならない。

そこで検討するに、被告宮崎の右の故意行為がなければ、亡實が本件事故によつてどの程度の傷害を蒙つたのか従つてその損害に対する相当因果関係の及ぶ範囲がいかほどであるか、本件訴訟の薄い証拠に鑑みにわかに断じ難いけれども、前記認定した事故態様、事故直後の亡實の容態状況からすればかなりの重篤な傷害を負つていたとも考えられる。そうすると損害賠償の公平の分配という見地からみれば、すべての逸失利益につき本件事故と相当因果関係があるといえないものの、事故後一〇年間の逸失利益の喪失分を負担させるのが公平というべきである。そして亡實の生活費は収入の四〇パーセントと考えられるから、同人の死亡による逸失利益をホフマン式により年五分の割合による中間利益を控除して本件事故当時の現価を算定すると、その額は次の算式どおり一九四一万四六二一円となり、本件事故と相当因果関係にある損害額は同額となり、この範囲において被告宮崎と被告藤本英二は不真正連帯責任を負う。

月339,397(円)×12×0.6×7.9449=19,414,621(円)

一方故意行為をなした被告宮崎に対しては、満六七歳までの逸失利益分を計算するのが相当である。

そうすると三二〇五万一〇二三円となる。

月339,397(円)×12×0.6×13.116=32,051,023(円)

2  次に慰藉料について検討する。

原告らは、民法七一一条の生命侵害に伴う遺族ら固有の慰藉料請求を主張する。しかしながら前判示のとおり亡實は、本件事故により、かなりの重症を負つたと考えられるものの、それのみでは、生命侵害にまさるとも劣らぬ程の負傷を負つたとは考えられない。被告宮崎の故意行為によつて致命傷を負わされたと考えるのが妥当である。そうすると生命侵害をなした被告宮崎に対してのみ責任を問い得るというべきである。そこでこの点を検討するに、成立に争いのない甲第七号証(但し、後記措信しない記載部分を除く。)、第八号証、乙第一号証によれば、原告野口好子は亡實と昭和五五年に離婚し、その後は夫婦の実態はないことが認められる。右認定に反する甲第七号証中の記述部分は、前掲各証拠に照らし措信できない。そうすると、原告野口好子は民法七一一条の配偶者といえず固有の慰藉料請求権を有しえないというべきである。

又前記証拠によれば、原告野口和広は右離婚とともに原告野口好子と同居し、亡實と別れたことが認められる。そうすると亡實との親子の感情は極めて薄いものであつたと考えられ子としての被告和広の固有の慰藉料は五〇万円をもつて相当と認められる。

更に前記証拠によれば原告横田悦子は父母の離婚後亡實と同居し、同宅から高等学校に通学していたことが認められる。それからすればその親子の感情は極めて濃厚なものであつたと解される。しかして本件事故の態様、被告宮崎の故意行為の残虐性、原告悦子の本件事故当時の境遇等を総合考慮すると、亡實本人の慰藉料請求をしていないことに鑑み固有の慰藉料として一〇〇〇万円を相当と認める。

3  全証拠によるも、原告野口好子が亡實の葬式費用を支払つたとの事実を認めることはできない。

4  原告野口和広と同横田悦子が美甘村農業共同組合から自賠責保険金一九一〇万五一〇〇円を受領していることは当事者間に争いがない。

そうして、前判示の逸失利益からこれを控除すると、被告藤本英二に対しては残金三〇万九五二一円(円未満切捨)が有するところ、亡實の子である(子であることは被告宮崎との間に争いなく、又弁論の全趣旨より認められる。)原告野口和広と同横田悦子は法定相続分各二分の一である金一五万四七六〇円ずつを相続承継した。

又被告宮崎に対しては、原告野口和広と同横田悦子は右保険金の受領控除後の(円未満切捨)六四七万二九六一円ずつを相続承継した。そして原告野口和広は前判示のとおり固有の慰藉料五〇万円を有するから合計六九七万二九六一円の損害賠償債権を有し、原告横田悦子は固有の慰藉料一〇〇〇万円を有するから合計一六四七万二九六一円の損害賠償債権を有する。

八  よつて原告野口和広の本件損害賠償請求は、被告藤本英二に対しては金一五万四七六〇円の、被告宮崎に対しては金六九七万二九六一円の、原告横田悦子のそれは被告藤本英二に対しては金一五万四七六〇円の、被告宮崎に対しては金一六四七万二九六一円の内金七〇〇万円とこれらに対する本件事故の日である昭和五九年七月一五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 生田治郎)

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